ミステリー 吉田修一

吉田修一『怒り』を読んで。詳しく解説します。ネタバレあり

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吉田修一氏の「怒り」は、映画化もされた天才作家・吉田修一が描いた渾身のミステリーです!

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ストーリー

物語の舞台は東京・千葉・沖縄の3箇所。八王子で起きた夫婦殺人事件の犯人・山神を追って物語はスタートします。

東京編

ゲイの藤田優馬は週末になると同じ趣味を持つ友人たちとディスコにでかけ、気に入った相手がいたらセックスをするという毎日を繰り返していた。ある日いつも通り男性が集まるサウナに出かけ男を物色していると、見慣れない男を見つける。優馬はその男と強引にセックスをしたあと食事をした。聞くと仕事もなく家もないという。優馬はその男・直人が気に入って自分の家に居候させることにした。だが心の中では身元不詳のその男をどこまで信じて良いのかわからずにいた。ある日テレビで1年前に起こった八王子夫婦惨殺事件のニュースを見て、その逃亡している犯人は右の頬に特徴的なほくろがあることを知る。そしてなんと直人の頬にも同じほくろがあることに気付き・・・。

千葉編

槙洋平は千葉の港町で猟師をしている。ある日NPO法人の団体から「娘の愛子さんを保護しているので引き取りに来てほしい」との連絡を受ける。愛子は3ヶ月前に家出をして行方が分からなくなっていたのだ。愛子は東京の歌舞伎町のソープランドで働いているところを保護されたのだ。彼女は純粋で汚れを知らない女性であり、やや知的障害があった。愛子を迎えて千葉に戻る洋平。ちょうどその頃洋平の働く港に田代という男がふらっとやってきて働かせてほしいといってきた。まだ20代くらいの若者なのでアルバイトとして雇われた田代。だがその田代と愛子が親密になりだし、洋平はだんだんと田代の過去が気になりだした。そしてついに二人が同棲したいと言い出したことを機に、洋平は田代の履歴書を見て前の職場に確認を取ってみた。すると思わぬ事実が発覚した・・・。

沖縄編

母親に連れられて沖縄の離島に引っ越してきた小宮山泉。彼女は友達の辰哉の船で無人島のような星島に遊びに来た。すると無人島かと思っていたのに一人の男性が住んでいることに気付く。名前は田中といい沖縄の島々を転々としていると言う。泉は田中に関心を持ち、何度も島に足を運んでは一緒にお茶を飲んだり海を見ながら話したりするようになった。ある日映画を見に行くことになった辰哉と泉は那覇に行くことに。だが泉はそこで田中と出会う。そして3人でご飯を食べているうちに辰哉は酔いつぶれてしまう。田中と別れた泉は一人で那覇の街を歩いていると、米兵に襲われて暴行を受けてしまう。そしてそのことがきっかけで泉は心を閉ざしてしまうのだった・・・。

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管理人の解釈と評価

数々の賞を受賞している吉田修一さんの渾身のミステリー「怒り」は、ややドキュメンタリー的な要素も含んだ作品と言えるでしょう。

登場人物の誰も幸せにはならない。唯一最後に千葉の親子と田代だけがハッピーエンドと言えるのかもしれないが、それでも予想した結末とはやや違っていましたね。

まずは千葉編から。障害を持つ娘が家出をしてソープランドで働いているというヘビーな設定からスタート。田舎で育ち、汚れを知らない女の子が歌舞伎町のソープランドで客たちにボロボロにされるまで遊ばれているという設定が、私には目を背けたくなるシーンでしたね。そんな思いをしながらも地元に帰ってきた愛子に一人の男性が現れる。自分の過去を知りながらも受け入れてくれる男性に愛子を心底好きになってしまいます。しかしその男の素性がわからなければ気になるのが父親ってもんですよね。調べたくなる気持ちも大いにわかります。最後には自分の娘を信じてあげられなかった父親。そして田代を信じてあげられなかった愛子が哀しいまでに描かれています。その感情を察して田代も街から出ていこうとします。だが最後には再び愛子と洋平に信じてもらうことが出来て帰ってきます。この作品で唯一信じ抜いてもらえた男と言ってよいでしょう。

東京編はやや意味不明な点が多かったです。作中で直人にも山神と同じほくろがあることがわかるが、それはただの偶然ということで終わります。そして施設で育った心臓の悪い男で、命もあまり長くなかったようですが、ここでも優馬は直人を最後まで信じてあげられずに「お前人殺して逃げてないよな?」と聞いてしまいます。そして直人はいなくなるわけですが・・・。指名手配犯と同じほくろがあって素性がわからなければ、そんな感じで問いただすのも当たり前かなと・・・。直人は信じてもらえなかったことがショックだったようで姿を消しますが、ややこのあたりの展開は無理があるような感じがしましたね。またこの東京編だけはタイトルの「怒り」とのつながりが未解決のままのような気もします。

作者が本当に伝えたかったのはこの沖縄編ではないかと思います。この作品は「外国人殺害事件」で逃亡して整形手術を繰り返しながら沖縄の離島で逮捕された市橋達也の事件が題材になっていることは間違いないでしょう。吉田修一さんはこの市橋達也の事件に沖縄の基地問題や米兵の暴行事件などを交えて、独自の観点から我々にメッセージを伝えたのではないかと思っています。やり場のない悲しみや苦しみ、そして怒りが人を殺人へと駆り立てる。普通の人間が怒りによって殺人鬼に変わってしまう。ということをこの作品で見事に描いています。この沖縄編でも主人公の泉が米兵に強姦されるシーンがあります。そしてそのことをしった辰哉はこう言います「ああいうの、どうにかできないのかな」「警察に言っても国に言っても誰も助けてくれない」と。

この悲痛な叫びが、最後、山神を殺害する原動力となって刺し殺します。もちろんきっかけは山神の泉を笑う落書きを見つけたからですが、この辰哉の行動で泉も変わり、結果として沖縄自体に影響を与えることになりました。辰哉のとった行動は正しかったのでしょうか?間違っていたのでしょうか?その答えは安易には出せないと思います。

読んでいて、だんだんとタイトルの意味が分かるようにはなりますが、それにしても「怒り」ではなく、何か別の「信じる」みたいなタイトルのほうが良かったのではないかな?と素人目線で言わせてもらいました。

この本から生まれた名言

「私、田代くんのこと裏切った。裏切った。田代くん、私のこと信じてくれたのに、私、田代くんとの約束破った・・・。」    「愛子」

 

管理人の評価
・読みやすい    ★★★★☆
・人生に影響した  ★☆☆☆☆
・感動した        ★★★☆☆
・人に勧めたい   ★★★☆☆
・恐怖度      ★★★★☆
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-ミステリー, 吉田修一

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